【小説】JKとアジングとサイボーグと 最終話「ただの日常」

ストーリー

 ーー元々、そんなに好きじゃなかった。

 友達に誘われるままに入って、その子の才能に気付き、私が才能がないって気付いただけ。

「私は誰と戦ってたんだろう?」

 だから、私は、ラケットを置いた。

 目の前で泣いているこの子は、才能あふれる子。

 アジングの大会で小学生なのに優勝するほど、恵まれた子。

 だから、最初はちょっとムカついていた。

 だけどその涙を見た時、ようやく気がついたんだ。

 ”ああ、この子は私と同じなんだ”って。

 だから、私は聞いてみたんだ。

「ーーあなたは誰と戦っているの?」

 私立 古蔵港高校。第三次ベビーブーム到来により、増えすぎた子供の学校を確保すべく、以前はは展示場の一部として利用されていた場所を改築し、学校として作り替えた新設校だ。

 そのためか、学校なのに体育館も運動場もない。古蔵港高校のような急増校、それぞれの体育館や運動場の土地をいきなり用意することは困難だった。

「パスいったよー」

 解決策として、現総理大臣が打ち出した解決法は、総合の運動場や体育館の作成。または大型運動施設の活用だ。

 元々古蔵港高校の近くには、大型のサッカー場があった。なので、試合がない日は、このサッカー場が古蔵港高校の運動場となっていた。

「おっけぃ! まかせろぃ!」

 その影響か、古蔵港高校はサッカー部が活発だ。Jリーガーからの特別指導も受けられるのでサッカーの超強豪校。そのため、体育の授業もサッカーが各学年で取り入れられている。

「おっしゃー! バナナシューーーーー……あり?」

 ……が、運動音痴はどこの学校にも存在するものだ。

「……なにやってんのよ。美穂」

「おっかしいなぁ……」

 美穂は、毎日の自転車通学のおかげでそれなりに筋力がついてきた。が、球技に必要なテクニックについては不得意だった。

「ぜはぁ……ぜはっ……はうぅ……」

 一方彩夏は、体力も筋力もテクニックも何もかもが平均以下。努力はするのでお情けで偏差値をとる典型的な運動音痴だった。

 したがって、釣り同好会の中で運動に特化したのは二人だけだった。

「はぁっ!」

 楓の見事なボレーシュートが、強弓から放たれた矢のような速度で、ゴールポストに向かう。キーパーがおびえてへたり込み、誰もが得点を確信したが……。

「あまいっ!」

 その矢を真横から高く蹴り上げ、観客席までボールを飛ばす黒き風が一陣。

 琴音だった。

「すっごっ! かえかえの弾丸シュートを防いじゃった!」

「フン。この程度、造作もないわ」

 楓は元ソフトテニス部。もともと運動は得意だったこともあり、関東にいたころは、友達とよくバスケやフットサルをしたものだ。

 その楓よりは体力や筋力は劣るものの、反射神経と器用さで勝るのが琴音だった。

 琴音の場合、文武両道のお手本のようなものだった。真面目に授業をうけ、スポーツでも決して手を抜かない。そのため、体力こそ楓に劣るものの、どんなスポーツでも器用にこなすようになった。

「はい、交代! 今入ってるグループは休憩ね!」

 体育教師がホイッスルを鳴らし、楓たちに支持をした。

 体操服で汗をぬぐいながら、ベンチに座る。自然と釣り同好会メンバーが集まり、各々ドリンクを飲んだり、タオルで残りの汗を拭いた。

「いやぁ! やっぱ琴音はすごいねぇ」

「たいしたことないわ。フルタイムの試合になると、いつも楓に負けてるし」

 体育の練習試合となると、やはり体力差の影響が強かった。楓はランニングを毎日日課として続けているので、持久力が琴音より遥かに高かった。

 琴音は少し悔しそうに語っていたが、その言葉にはどこか楽しさを感じた。

「いやいや! 琴音の方がすごい才能だって。ホント」

 謙遜する楓だったが事実、釣り同好会メンバーで本格的にサッカーをした場合、おそらく一番才能があるのは琴音だろう。

 現在楓が試合で勝てているのは、あくまで運動部の経験があるからだ。鍛えた体力と筋力で、強引に勝利を引き寄せているに過ぎない。

 楓は、人一倍努力家ではあったが、同時に人を見る目がある。それだけに、残酷なまでに”才能のあるもの”と”才能のない自分”というものを見せつけられ続けていた。

 ……楓は、ソフトテニス部で一番真面目に、一番長い時間努力をし、一番自分の才能のなさを知っている。

 確かに、努力は人を裏切らない。……が、才能は人を裏切る。

 努力で才能を超える実力を手にすることはできても、才能を持った相手が楓と同じ努力をすれば、必ずその差を否応なしに突き付けられる。

 背の高さ、骨格、筋肉のつきやすさ、神経伝達速度。あらゆる面で、楓は自分の弱点を突き付けられ続けた。

 人と同じ努力をしても負けるから、人より努力をした。が、スポーツの世界で”人より努力をする”なんて、みんなやっていることだ。

 それだけに、自分より努力をしていない人物に負ける自分が、たまらなく悔しかった。

 楓が運動部を避けたのは、島暮らしだからという理由だけではなかった。そもそも楓がソフトテニス部に入りたいといえば、両親は喜んで楓の一人暮らしを許していただろう。

 そうすれば門限もなく、ゆっくり古蔵の町で遊べていて、レギュラー入りくらいは狙えただろう。他の部活を選んでも、努力家の楓なら、それなりの成績は残せた。

 が、あくまで”それなり”の範囲でしかない。

 ソフトテニスに未練があるわけじゃない。実際、楓は努力をしていない選手を倒すことができる程度には動ける。……が、楓は才能に裏切られることに疲れていた。

 それが、彼女が釣りに興味を持った、本当の理由だった。

 釣りは人と人の対決ではない。人と魚の対決だ。

 ”ーーあなたは誰と戦っているの?”

 琴音を諭したその答えは、楓にとっては救いだった。

 釣りにも才能はある。アジングの場合は小さなアタリに即応できる反射神経などがそれに当たるだろう。事実、琴音はそういった才能に恵まれていた。

 が、楓は勝負の相手を”人”ではなく”魚”とみていた。

 だからこそ、釣りは楽しかった。

「っしゃ!」

 その週の土曜日。いつものように釣り同好会メンバーでアジングをしていた。すぐに楓のロッドがしなやかに曲がり、その先のアジを楓はフィッシュグリップで捉えた。

「すごいなぁ……これが高級タックルの感度」

 楓が今使っているのは、Canikamaの「乙姫 桜華」というハイエンドにも匹敵する5万円クラスのロッドだった。

 元々は琴音がテスト用として借りたものだが、Canikama営業から、素人が使った場合の感触をレビューしてほしいという提案があり、楓が借りている状態だ。

 楓にも実力がついてきたこともあり、ロッドの違いを実感できるようになっていた。まず驚いたのがその軽さだ。竿の存在を感じさせないほどの軽さは、小さなアタリによる変化をクリアに楓の手元に伝えてくれる。

「気に入ってくれたのはいいけど、壊さないでよ」

 琴音が持っていたタックルをバッカンの竿立てに入れると、あきれたように腕を組んだ。

「わかってるってー。ってか、琴音。今日はベイトタックルじゃないのね」

「ベイトタックルはたまに使うだけ。アジングの場合、やっぱりスピニングの利点のほうが大きいしね」

 アジングでは、軽量リグを多用する分、スピニングの利点がより際立つ。特に飛距離については、どうあがいてもスピニングのほうが飛ぶ。

 先日は数釣り。しかも短距離飛ばせばよく、手返し重視で考えていいという条件だったから、琴音はベイトアジングタックルを選んだが、基本的には彼女も広範囲に探れるスピニングタックルでアジングをやっている。

「ねぇ。私がやっている方法以外にも、いろんなアジングの仕方があるの?」

「そうね。有名どころだとリグ……つまり仕掛けの違い。フロートリグ、キャロライナリグ、スプリットリグ、ダウンショットリグとか、アジングで使われるリグにも、いろんなものがある。そして……そうね」

 見せたほうが早いと、琴音は再びタックルを手にし、ルアーを付け替える。

「……? 金属?」

「メタルジグ。人によってはこの釣り方は、ウルトラライトショアジギングとかいろんな呼び方されるけど、これもアジ狙いでよく使うわ」

「うるとららら……な、なんだかすごい名前ですね」

 琴音が鋭くキャストすると、皆よりさらに遠くへ飛んで行った。

「アジングで使うメタルジグは大体3~5g程度。しかもワームより空気の影響が少ないから、飛距離が稼げる。そして……何より」

 タダ巻きで誘うと、わずかな重みの変化に琴音は気づいた。アタったものの針を飲み込まなかったと判断し、備えつつも変わらずリトリーブを続ける。

 そして、琴音は竿を立てる。と同時に強烈な曲がりを見せる。楓は琴音のラインが大きく左右に暴れるのを見て、残念そうにその先を見つめる。

「やっぱり……そううまくいかないわね」

 次第にメタルジグをとらえた魚が、大きく跳ねる。銀色に輝くその魚体を見て、やはりと短くため息をついた。

 長いファイトの上、陸に上がったのは、セイゴ。ルアーの世界ではシーバスと呼ばれる。日本だとスズキの幼魚だ。

 スズキは成長によって呼び名が変わる魚で、「セイゴ」とは20~30㎝程度のサイズを指す。ちなみに40~60㎝のものをフッコという。今回は36㎝だったので、ギリギリフッコとは呼べない程度のサイズだった。

なお、小さいシーバスのことをチーバスなどと呼んでる人がSNSでは多い。愛称ですら名前が変化するというのも、変な話だ。

「メタルジグは、ワームよりは小魚をイミテートしやすい。今回はチーバスだったけど、アジも成長するにつれて小魚を捕食するから、サイズアップ狙いでメタルジグも持っているといいわよ」

 事実、大型が大量に上がる地域の地元民は、ワームというよりメタルジグをよく使うところもあるそうだ。茜島は比較的小さめのサイズが多いものの、磯場の場合はメタルジグも選択肢に入るだろう。

「まだまだ、私の知らないことって、たくさんあるんだなぁ」

 アジングという、釣りにおける一つのジャンル。それだけでも、多くの釣り方があり、奥深い。

「ことねる! 今度リグってやつ教えてよ! アタシもアジングマスターになりたい!」

美穂は、オニューのアジングタックルを、ブンブン振り回しながら元気よくはしゃいでいた。

「美穂さん、あ、あまりタックルは乱暴に扱わないでください……。せっかくご両親に買ってもらったのでしょう?」

「あ、私フロートリグってやつ覚えてみたい!」

3人ともマイペースに話してくるので、呆れた琴音は頭を抱えながら言い返す。

「……教えるのはいいけど、あなた達、少しは釣り人らしい格好したら?」

「え?」

 楓はいつものパーカーとミニスカートの中にスパッツと、軽装だった。

「スニーカーはともかく、露出が多すぎ」

「めくれても大丈夫だよ? 中スパッツだし」

 ヒラヒラとスカートを持ち上げてスパッツを見せつける楓に頭を抱える琴音。

「そういう意味じゃなくて、問題はふともも。釣りは針で怪我しないように、極力露出を避けるのが常識でしょ?」

「うーん……でも、やっぱり脚を出した方がオシャレだし……そのためにダイエットも頑張ってるんだよ?」

 実際スカートでルアーフィッシングを楽しむ人はいないわけではない。が、せめてレギンスを履くものだ。

 本来はジャージやジーパンなどの長ズボンが適切なのだが、気をつければ大丈夫ということで服装自由になっているのが現状だ。

「オシャレなら、それこそ釣り女子の服を参考にしなさいよ」

「でもことねる。シャツと短パンだけで釣りをしていた伝説のアングラーが昔いたって聞いたよ?」

 美穂が自分のTシャツと短パンを見せつけながら、親指と小指を立ててポーズを決める。

「そうだったわ……」

 そもそも参考にしてほしいオシャレな女性のテスターを、楓たちが知っているはずもなかった。

「なら、せめてこれかぶってなさい」

 バッグからそれを取り出すと、楓の頭に白いキャップを被せた。

「帽子は直射日光から守ってくれるのはもちろん、目にルアーが当たる事故を防いでくれるわ」

「……くれるの?」

「た、たまたまCanikamaの昔の帽子が余ってただけよ!」

 照れている顔を背けて見せないようにする琴音だったが、楓も嬉しさでニヤつく顔を俯かせた。

「ダークスノークイーンでも照れるんだ〜。かわいぃ〜」

「スノウ!!!」

「お、怒るところそこなんですね……」

 不思議そうに帽子を見る楓。

「なんで私にプレゼントを?」

「だ、だから余っていたからあげるだけだって……そ、それに、釣りは魚との勝負だって、思い出させてくれたしね」

 それは琴音なりの感謝の伝え方だった。

 琴音は、釣りとは誰かとの勝負だった。釣りは常に誰かにみられているものだったから。だから才能と努力に支配されていた。

 しかし、楓は釣りというものの本質を見つけていた。

 楓は琴音に、釣りの楽しさを思い出させてくれた。釣りの本質である魚との真剣勝負を……。

「ありがとう……大事にするね」

 少し照れながら、それでも感謝を伝えた楓の顔は、赤くて、でも太陽のように眩しかった。

 この世界はあまりに歪で、いつも非日常と隣り合わせだ。

 戦争がなくなり、あらゆる兵器が鉄屑となった今でも、争いそのものはなくなっていない。

 平和とは本来、至極単純で誰でも手にいれることができるものなのだ。

 仲間と笑い、遊び、釣竿を垂らす。小さな魚に右往左往し、頭をひねる。それだけで、平和は実現し、楽しい。

 それを、みんな知っているはずだ。

 かつてじいさんが煙を仰ぎ、見つめた腐った空は、こんなにも明るいものだったのだと。

 ししゃもを齧り、ニヤリと笑うその目には、4人の少女がフェリーから手を振る様子がうつっていた。

 これはそんな、アジングを通して出会った、ただの日常だーー。

あとがき

ということで、「JKとアジングとサイボーグと」全19話終わりました〜〜!

いやぁ〜長かったw

本当は、もっと早く終わるはずだったんですが、書いていくうちに色々設定が追加されたり、キャラが増えたりして、気がついたら19話書いてました。

ちなみにですが、実は、本来この後も続くはずだったんですよ。

美穂
美穂

そうなの? 本当は最後どうなる予定だったの?

予定では、最後はだいふく親方と楓の対決。親方が勝つと、戦争が始まってしまうような展開になり、楓に全ての命運が託されてしまうという……。

だいふく
だいふく

……なんでそんな展開になるんだ?

いや、ちゃんと理由はあるし、伏線も貼ってたんですよ?

ただ、今回のお話を書いているとき、ブログの趣旨とやっぱり違うなと思ったんですよ。

この小説では”アジングが楽しいこと”を伝えるべきであって、戦争とかそういうテーマを伝えたいわけじゃないって。

悩んだ結果、今回はこの話で終了した方が、彼女たちの日常を綺麗に描けるだろうということで、こんなお話にしてみました。自分では十分納得できるものになったと思いますが、どうでしょうか?

さて、最後に才能のお話をしましょう。

才能という意味では、対極的だったのが琴音と楓です。

琴音はその才能のおかげで、小学生でアジング大会に優勝した。

楓は、努力しても努力しても大会に勝てず、辛い思いをした。

楓は元々全体的に平均値の少女という設定にしてたので、その反面特化した才能がないんです。

しかし、琴音のように才能を持っていても、辛いものは辛いんです。

結局は才能があっても、才能がなくても、自分の道を進むしかないんです。

みなさん。自分のペースで進んでください。

遊んでください。

楽しんでください。

それがきっと、明日のあなたを幸せにしてくれますよ。

それが、僕なりのアジンガーのたまりばです。

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