【小説】JKとアジングとサイボーグと 十二話「廃部!?」

ストーリー

 釣り同好会は、幽霊部員一人の状況から一変して賑やかになっていた。

 釣り同好会部長。涼月彩夏(すずつきあやか)。

 釣り歴は5年と長く、ウキ釣りをメインに活動している。得意な釣りはフカセ釣り。

 一般的なウキ釣りにマキエを加えた古き良き釣りを守る少女。おしとやか……というより気弱。極度の男性恐怖症。

 副部長に任命されたのは、安治平楓。

 社長令嬢から茜島に引っ越したという没落貴族の少女だが、父親の総資産は国家予算級。それでもお嬢様気質に育たず庶民的に育った理由はひとえに教育の賜物といっていいだろう。

 なお、月のお小遣いは5000円+店の手伝いをした時の時給換算で決定するため、元社長令嬢ながら、割とかつかつである。

 そして、釣りのことなどまったく知らないくせに楓を巻き込んで入部した台風少女。桜城美穂。

 チョコミント同好会唯一の部員。病弱だった幼少期の反動もあり、一気にアクティブな少女に変貌した。

 なお、リハビリのために両親からもらった自転車で遠距離通学をしているため、幼少期からは想像もできないほどフィジカル特化の体力おばけに成長。地元でも有名な地獄坂をママチャリで爆走する。

 以上、三名で再始動した釣り同好会は――。

「――以上の理由から、釣り同好会は廃部となります!」

 活動1日目から、廃部の危機を迎えていた。

 「ちょ、ちょっと待ってください生徒会長! 昨日入部届を受理してもらったばっかりですよ!?」

 生徒会長、冬咲琴音はため息混じりに楓の抗議に反論した。

「たった今理由は説明したばかりですよ。この古蔵港高校は、部活や同好会が増えすぎました。生徒の自主性を尊重するためとはいえ、自由に部活を作れる制度はやりすぎだと生徒会でもかねてから問題になっていました。そこで、人数が4名以下の部、及び同好会は廃部。そして類似する部活があれば、部員が多い方を残し、少ない方を廃部とすると」

「えっ! じ、じゃあチョコミント同好会は!?」

「当然チョコミント同好会も廃部です」

「んなぁ!?」

 ……自業自得な決定にショックを受ける美穂を尻目に、本題と言える釣り同好会の廃部に話題を戻す。

「でも、そんな急に決められても……じゃあ、私たちはどうすればいいんですか?」

「簡単な話です。ルアー同好会に入部すればいいんです」

「ルアー……同好会……」

 ルアー同好会。釣り同好会の後に設立した同好会。元々はエサ釣りとルアー釣りという建前で分けられていたが、釣り同好会は人気がなく、ルアー同好会に人が集まった。

 結果、彩夏の兄が卒業し、彩夏が唯一の幽霊部員となったことで釣り同好会は彩夏一人、ルアー同好会は8名という状況が生まれた。しかも、ルアー同好会は男性が非常に多い。

 男性恐怖症の彩夏は、あからさまに怯えた表情を浮かべた。

「ま、待ってください! 彩夏は男性恐怖症なんです。いまさら男性の多いルアー同好会に入部なんて……」

「そ、そうだよ! 可哀想じゃん! おーぼーだよ!!」

「それに、彩夏はエサ釣りをしていて、ルアーではないんです。それじゃルアー同好会とは呼べないんじゃないですか?」

「ルアー同好会は、釣り同好会メンバーを受け入れるなら部へ昇格する定員10名を超えます。そのため、涼月さんも入部するなら、釣り部として活動し、女子と男子、別れて活動するこを約束してくれました」

 ぐうの音も出なかった。そもそも、釣り同好会は彩夏が一人釣りをしていただけで、なんの実績もない。一方でルアー同好会は、バストーナメントなどの出場や研究テーマの発表など、目立ったものはないが一応の実績を上げている。

 それに、部に昇格するという意味では、生徒会長の提案は決して悪い提案ではない。エサ釣りをするのは彩夏だけだし、そもそも彩夏もルアーが特別嫌いってわけではない。

 だが……。

「…………」

 さっきから、彩夏はヘビに睨まれたネズミのように俯いて震えている。

「男性恐怖症……いや、新しい診断では対人恐怖症といった方がいいでしょうか?」

 彩夏の体がびくりと痙攣する。

「な……んで……?」

「当たり前です。学校に障害や病気の申請をしているのに、生徒会長である私が知らないわけないでしょう?」

「……うぅ」

 無神経に精神病のことまで踏み込んでくるその態度に、楓と美穂は堪忍袋がはち切れんばかりの怒りを琴音に向けたが、まったく意に返すことなく、冷酷に話を進める。

「無理する必要はありません。医者の診断も出ていることですし、このまま幽霊部員扱いとして活動しても構いません」

「そ……それは……」

「なら、今すぐに部員を集められるんですか? 女性の……しかも釣りを趣味とするメンバーを」

 ……無茶だ。釣りガールという言葉ができるくらいには女性アングラー人口は増加傾向だが、それでも圧倒的に少数派であることには変わりない。

「わ……わかり……ました……つ……釣り同好会は……」

 絞り出すように諦めを言葉にしようとした時だった。

「勝負だーーーー!!」

 美穂が吠えた。

「えっ!?、み、美穂!?」

「釣り勝負だよ! うちらが勝ったら、廃部を取り消して! 負けたら釣り同好会は廃部!」

「め、めちゃくちゃな……」

 これでは生徒会長のメリットがない。勝負に乗っても乗らなくても廃部になるのだから。美穂の無茶苦茶な提案に、“乗るわけがない”と頭を抱える楓だったが……。

「勝負……ね」

 琴音の口は鋭く三日月を描いた。まるで、最初からこうなることを望んでいたかのように……。

「いいでしょう。せっかく提案に乗るんですから少し条件を修正させていただけませんか?」

「え? せ、生徒会長、釣りできるんですか?」

「ええ。たしなむ程度には……。勝負の内容はそちらのお好きなものを」

「じ、じゃあ……アジングで……」

 生徒会長の口角がさらに鋭さを増した。その笑みは不気味なほどに、だが、自分の勝利を疑わないほどの自信に満ち溢れていた。

「いいでしょう。ではフィールドと日時、そちらの代表が決まり次第連絡してください」

 その違和感の正体がわかったのは、次の日釣り同好会部室での出来事だった。

「あ、あの……安治平さん……こ、これ……」

 相変わらずのオドオドした態度。だが、少し慌てたような表情に楓の顔は少し引き締まる。

「……かにかま?」

 美穂は彩夏の差し出したパンフレットのメーカーロゴを確かめるように読み返す。

 Canikama。ふざけた名前だが、元々磯竿の超人気メーカーで、釣り針なども愛用者の多い老舗だ。特定ジャンルでは超大手のシマワやダイノよりファンが多いと言っていいだろう。

「楓ちゃん、かにかまのパックロッド使ってるでしょ?」

「うん……まぁあれはお父さんの借り物だけど……」

 楓の使っているパックロッドは「かにかま ラグザ パックアジングA4」というもので、仕舞寸法が超コンパクトで学生のバッグにも余裕で入るのに性能が高いのことが売りだ。元々は運動不足解消のために父が自転車通勤をしていた帰りに釣りをするために買ったものだったが、島の居酒屋を開いたことによりお蔵入り。……というのももったいないので、楓にほぼ譲る形で貸しているというわけだ。

「……そのパックロッドの開発……当然テストをした、いわゆるテスターさんがいるわけだけど……その中の一人に……」

 パンフレットのパックアジングA4の項目までめくり、大きな見出しに中学生くらいの少女が掲載されていた。

「……天才中学生も唸る高感度……フィールドテスター……ふ、冬咲琴音……?」

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