【小説】JKとアジングとサイボーグと 六話「ガクエングッ」

クレープデート? ストーリー

 ――古蔵港高校(こくらみなとこうこう)。昔はかなり大掛かりな施設だったららしい古蔵港の横にある施設を、第三次ベビーブームによって増えた子供のために、学校として再建させたという歴史の浅い学校だ。

 楓は第三次ベビーブーム初期に生まれた子供となる。そのため、古蔵港高校には三年生が極端に少なく、二年生より下が極端に多いといういびつな状態となっている。そんな事情もあり三年生はひとクラスなのに対して、楓の学年である二年生はA~Dまでの4組。各クラス30人。つまり二年生だけで120人近くもいる計算となる。2020年代なら珍しいが、近年では良くあるタイプの学校だ。

 転校生恒例の質問攻めは案外あっさりしていて、好奇心旺盛な学生たちが数人話に来たくらいなものだった。やや肩透かしを食らった気分の楓だったが、楓は元々積極的に友達を作るタイプではないので、むしろホッとしていた。仲のいい人が2~3人くらいが彼女のちょうどいい友人関係だ。


 ……だが、人間2~3人分のやかましさを持つ存在がこの高校には存在していた。
「かえかえ! 放課後暇?」
「……またゲーセンいくの? 美穂。部活大丈夫なの?」
「だいじょーぶ! 幽霊部員だから」
 これほど堂々と幽霊部員を名乗る人間は、この桜城美穂くらいなものだろう。……と、いってもこの学校で幽霊部員はそう珍しくない。部活強制参加という昭和の風習を採用しているくせに、部活、同好会は学生の自主性を尊重しており、条件さえ満たせば作り放題。結果、幽霊部員のみが存在する部活や同好会が多数存在するのだ。

 ちなみに、美穂はチョコミント同好会の唯一の部員である。そんな美穂が幽霊部員なのだから事実上の帰宅部ということになる。

 楓は入る部活を決めかねていた。気になる部活はあるものの、その部活はチョコミント同好会と同じく幽霊部員一人のみなのだ。

「かえかえもチョコミント同好会入ろーよー。んで毎日パフェ食べよ!」
「お小遣いなくなっちゃうわよ……それより、今日は何狙ってるの?」
「発寝ミクニの寝そべるぬいぐるみ!」
「ハイハイ……」

 実は、楓が転校した当日、ちょっとした勘違いが蔓延していた。そりゃそうだ。埼玉……事実上の東京暮らしから、一転して廃村間際の孤島に引っ越し。しかも、父親は大企業の元社長である。普通に見ればただの「島流し」としか見えない。
 だが、美穂というやかましい友達の圧倒的なコミュ力によって、楓のうわさが勘違いということが一気に広まり、事態の収縮へと向かうこととなった。そういう意味では楓は美穂に感謝しており、それをきっかけとして仲良くなった。
 以降、放課後は美穂の趣味に付き合っている。といっても、もっぱらゲーセンでぬいぐるみ集めやファンシーグッズ、コスメなどのウインドウショッピングだが……。
「かえかえはなんか趣味あるの?」
「趣味? 趣味かぁ……今は釣りかなぁ?」
 その返答に美穂は大きく感嘆のため息をついた。
「釣り? へぇ……意外」
「意外? なんで?」
「いや、かえかえって結構コスメとかファッションに詳しいじゃん。アウトドアな趣味からは縁遠いかなーと思ってた」
 言われてみればそうだ。楓は元々アウトドアよりインドア派の性格で、ファッションや、音楽鑑賞、映画などが趣味という、よくいる女子高生の類だった。
 そんな楓の趣味を確立させた存在は、やはり某サイボーグ猫の存在が大きい。そう考えると、無性におかしくなってつい吹き出した。

クレープデート?

「すきありっ!」
 楓が吹き出した瞬間を見逃さず、美穂は楓の持っているパフェに包まった特大サイズのイチゴをアイスごとほおばった。
「ああっ! 私のあまおうがぁ!!」
 涙目になりながら、恨めしそうに美穂をにらんだ。
「あははっ! ごめんって! 代わりに私のチョコミントあげるから」
「私がチョコミント苦手って知ってるでしょ! 代わりに隣のバニラアイスよこしなさい!」
「ダメダメ! バニラはチョコミントより好きなんだから!」
「アンタチョコミント同好会部長でしょ! 私のイチゴ食べたんだからチョコミントで我慢しなさい!」
 ……と、喧嘩はするものの、二人とも本気では怒らない。むしろこの喧嘩を楽しんでいる様子だった。

「……ところでさ。釣りっていろんな種類あるんでしょ?」
「うん。私はアジングっていうのしてるんだ」
「あじんぐ?」
 どう説明したものかと首をひねりつつ楓は説明を始めた。
「うーん。アジって魚いるでしょ? それをルアーで釣るんだよ」
「フーン……なんでアジングっていうの?」
「え……そういえばなんでだろ?」

 考えてみれば不思議だ。前半2文字のアジの部分はさすがにわかるが、ングって何……? というより、なぜルアーの種類ってやたらとングをつけたがるのか? メバリングにガシリングってそれもう釣れた魚やないかい。チニングはチヌとかけてるのはわかるけど、なんでヒラメ対象になった瞬間にフラットフィッシュやねん。なんでマゴチとまとめてフラットにすんの? なんでバス釣りは釣りやねん。イングつけろよ。バスイングもしくはバッシングだろ。なんで某村◯さんの書籍でしかバッシングっていう人いないの? なのにシーバスになった瞬間なんでジャンル「シーバス」なん? シーバッシングとかなんでいう人少ないの? 極めつけはエギングだよ。エギは日本語の餌木から来ているのは知っているけど、なんでングつけるんだよ。なんで英語と融合するんだよ。

 ――と、数分宇宙をさまようかのごとく無駄に思考が楓の頭の中を駆け巡り、アイスがクレープから零れ落ちて、スカートを濡らした。
「ぎゃあ! かえかえ! アイスこぼれてる! ってかなんでいきなり明後日の方向いてんの?!」
「――は! ……なんか世界の真理的な何かを見ていた気がする」
「もー! 何言ってんの? とりあえず、拭こう。えっと……ティッシュはあるから……でもベトベトしちゃってるなぁ」
「へ? 嘘! やだぁもう!」
 慌てて楓もスカートを服が、右太ももにバッチリシミが残ってるし、ベタついてる。これでフェリーに乗って家に着くまでそのままなんて気持ち悪いことこの上ない。
「うーん、ベトツキはウエットティッシュがないと無理だなぁ……あ、上の階に確か100均があったはずだよ」

 二人がたどり着いたタイソーチャッチャタウン古蔵店は案外広かった。いわゆる大型店というやつだ。そんなこともあってか、ウエットティッシュはすぐに見つかった。そのついでに、二人はしばらく店内を見て回ることになった。便利グッズや今日買ったコスメの収納ケース、ヘンテコなパーティグッズとふざけながらもさまざまなグッズを見て回った。……すると。
「あ、釣り具コーナーがあるよ」
「へ……ほんとだ。結構すごい量」
 100均の釣り具は動画などがきっかけでブームとなっていた。もちろん使えない微妙な商品もあるが、メーカー品よりも優秀とされるような商品もある。
「ねぇ、この中で釣れるのってある?」
「釣れるかっていうより、私のやってる釣りに使えるものがあるかどうかだけど……あ、あった!」
 コーナーにあったアジングで使えそうな道具は、ピンテールワーム、ジグヘッド、ケースに水汲みバケツといったところだろうか?
「……こんなので釣れるの? エサは……そのゴムみたいなの?」
「まぁ、そんなところかな」
 すでに楓の頭の中には、どうやってこのワームでアジを釣るかということでいっぱいだった。ワームの色はやや透明度が低め、……いや、クリアカラーもある。種類こそ少ないものの、これなら使えそうだ。ジグヘッドは1~2g……少し重めか。そうやって自分の世界に入る楓の後ろ姿を、少しうらやましそうな顔で見つめる美穂。
「……かえかえ、楽しそう」
「へ? ご、ごめん!」
 楓は、ワームとジグヘッドを全種類手に取った。ジグヘッド3種類にワーム二種類の計500円。税込でも550円。メーカー品ならワーム一袋でも550円以上はかかるので、小遣い制の学生としてはうれしい価格だ。
「それ買うの?」
「うん。こういうので釣るの、ワクワクするしね」
「ふーん……ちょっと釣ってるとこみてみたいなぁ」

「見てみる? 釣ってるところ」

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