【小説】JKとアジングとサイボーグと 十八話「帰れる場所」

ストーリー

 ここは兵庫県にある釣具製造会社Canikama本社。

 多くの釣り人が焦がれ、その技術を見てみたいと思うその場所に……

「タノモォーーーー!!」

 ーー土足で上がり込む少女達がいた。

「な、なんなの!? 君たち! ダメだよ勝手に入ってきちゃ」

 慌てて引き止める警備員を押しのけんばかりの勢いで、ズカズカと乗り込み美穂に圧倒される楓。

「ちょ、ちょっと……迷惑かかっちゃうから静かにしようよ! 彩夏もなんとか言ってよぉ」

「こ……ここがCanikamaの本社ぁ……カニ磯プレシードの歴代シリーズが展示されてますぅ……うへへぇ」

 釣りオタクモードに入った彩夏は普段のキャラをかなぐり捨てていた。楓は美穂がカスハラをなんとか止めなければと思い、助太刀を求める。

 だが、彩夏以外に助太刀してくれそうな琴音は、会社内に入れず立ち止まっていた。

「冬咲さん?」

「……」

 無理もない。一度テスターを辞めさせられたということは、クビになった会社にもう一度来るようなものだ。

 歓迎されるわけがない……そう思っていたところ。

「あれ……そこにいるの、琴音ちゃんじゃない?!」

 サラリーマン風の男が琴音に気づき、駆け寄る。

「あ、佐藤さん……あの……」

 出て行けと言われると思い、ちぢこまりキュッと目を瞑るが……。

「うわぁー! おっきくなったねぇ! ずっと来てくれないから、みんな心配してたんだよ!」

「……え?」

 いたずらがバレた子供のように片目を開けると、琴音の前には、まるで生き離れの子供にあったかのように歓迎する会社員佐藤の姿があった。

「えっ! 冬咲ちゃん来てんの!?」

「マジで! うわっ! ホントじゃん!! 懐かしっ! なんでこれまで来てくれなかったのさ」

「めっちゃ美人になってんじゃん! 背も高いし!!」

 あっという間にCanikama社員やテスターたちに囲まれた琴音は、何が何だかわからず、オドオドするばかりだった。

 ーー翌日。古蔵港高校 生徒会室。

「……結局、冬咲さんの早とちりだったってことですよね?」

 琴音は、バツが悪そうにうなづいた。

 Canikamaは琴音を除名にしてなかった。そもそも、だいふく親方と釣り勝負をしたことすら、彼らは知らなかったらしい。

 ではなぜ琴音が除名されたと勘違いしたかといえば、彼女がだいふく親方と戦う前日、SNSで釣りマナーの悪いインフルエンサーに暴言を吐いたからだ。

『釣り場晒すな! 漁師の迷惑考えろ!』

 という、まぁ気持ちはわかるような投稿が原因だった。それ以前から(彼女は悪くないが)炎上しがちだったこともあり、Canikama側は琴音に活動休止を提案した。

 この提案をだいふくに負けたショックで聞き違え、クビになったと勘違いしたわけだ。

「でも、よかったじゃないですか。SNSにも、冬咲さんの味方がいたようで」

 Canikama側の対応は、英断だった。この活動休止により、冬咲琴音のファンがアンチ側を炎上させ、すでに鎮火。それどころか、復活を望む声も増えていた。

 “冬咲琴音復活しないかなぁ……”

 “めっちゃアジングうまかったもんね。”

 “あの実力がわからないのはドシロートだよ”

「みてる人はちゃんとSNSにもいたってことだね」

「うん……みんな、ごめんなさい」

 Canikama本社でも釣り同好会メンバーに対して謝ったが、改めて謝る琴音。

「いいよ。釣り同好会が存続できるなら」

「あ、それは無理」

 楓が笑いながら返すと、即座に否定する琴音。

「……へ?」

「前も言った通り、釣り同好会は人数不足。同好会は4人以上。これは私だけではなく、PTA、教師たちの総意なの」

「ええ!? チョコミント同好会はっ!?」

「もう諦めなって……」

 チョコミント中毒の美穂の肩を目を伏せながら叩く楓。

「ですけど、じゃあ私たちが勝負した意味がないのでは?」

「その点は昨日PTAや教師たちに懇願して、特例として猶予をもらいました。釣り同好会は一週間の猶予を受け、その間にメンバー4人を集めれば存続です」

「じゃあ、存続じゃん」

 美穂が当然のように答える。首を傾げる琴音に応えるように、美穂は彩夏から順番に釣り同好会のメンバーに対して指をさす。

「部長のいろっち。アタシ。かえかえ。ことねる」

「ことねるって……私? なんで私を勝手にメンバーに入れてるの。休止中とは言え、私はCanikamaの元テスター。生徒会もあるし、釣り同好会にかまけてる暇はないの」

 プイッとそっぽむく琴音を楓が諭す。

「でも迷惑かけたと思うんなら、入ってもいいんじゃない?」

「できるわけないでしょ? テスター契約が継続されてるということは、そっちの仕事も今後増える可能性があるということ。同好会なんかに使う時間ないわよ」

 生徒会の仕事もこなしながら、テスターとしても活躍するのは、確かに負担だろう。

「そっかー。”ダークスノークイーン“のお仕事も増えるもんねー」

「ダークスノークイーンではない! ダークスノ”ウ”クイー……はっ!?」

 美穂がサラッと言ったその名前に脊髄反射した琴音は、これまでとは違う異常な量の冷や汗をかいていた。すると今まで見せたことのないほどの邪悪な笑みで、美穂はスマホを取り出した。

「!??!!?!??」

「いやぁSNSの琴音へのリプに、たまーに琴音のことをDSQって呼んでる人がいてね? 気になって昨日検索したんだー。っとと!?」

 獣のような俊敏さで、琴音が美穂のスマホを奪おうとするが、美穂はひらりとかわす。

「そしたらねー。Canikamaの動画の中に、あったんだよねー。これが」

 美穂のスマホ画面には、ゴスロリ服のまま堤防に現れ、厨二病全開のポーズを決めながらアジングをしていた……。

「消せ……今すぐ貴様の脳からその映像を消せぇーーーー!!!」

「わわっ! ちょっと! ひゃ!」

 まるで獣に変わったかのように、美穂に襲いかかる。その狙いはもはやスマホではなく、美穂の頭蓋を叩き割らんばかりの勢いだった。

「その深淵の記憶アビス・メモリアは、隠されし闇の動哭ダーク・アーカイブ! 故に、永遠にその存在を封印せねばならないのよ!」

「って言っても、Canikamaチャンネルで全話配信中なんだから防ぎようないでしょーが!」

ようやくそのことに気づき、ショックで崩れるダークスノ”ウ”クイーン。

「あああああああありえないありえないありえないありえないありーー」

 壊れたように呟き続けるDSQ。

「……ってか、そんなに嫌ならCanikamaに消して貰えばいいじゃんかよ。ダークスノークイーン」

「ダークスノ”ウ”クイーン!!! って、そうじゃなくて……もちろんCanikamaに動画の削除は頼んだわよ……でも、あれは元々釣り雑誌の付録DVDで……削除しても元の動画は……残っているわけなのですよ……はは、この意味わかりますかー?」

 もはや自身のキャラも崩壊してしまったDSQは、白目をむきながら、ふらふらと立ち上がる。

「そう! “消したら増える”の法則が発動し、消しても消しても増えるんの!!」

 だから、見かねたCanikamaが自身の動画チャンネルで、全話無料公開することにしたのだ。当時連載していた釣り雑誌社が潰れており、著作権はCanikamaが引き継いでいたため、可能な荒技だった。

 おかげで、無法に動画拡散されることはなくなった。が、同時に一生消えない厨二病動画となってしまった。

 しかも、元々この「下僕でも釣れる! ダークスノウクイーンのアジングの導き」の発案者は、当時の琴音である。それだけに反対意見を押し切ることはできなかった。

「で、でもかわいいよ! DSQ! ね! 彩夏」

「は、はい! すごくかわいいです! かっこいいなぁ〜ダークスノークイーン」

「スノ”ウ”!」

 どうやら相当なこだわりがあるようだ。スノーとスノウの違いについては……。

「ま、まぁ、アタシは好きだよ? おもしろ……か、かっこいいと思うなぁー!」

 美穂までも琴音を励ましはじめた。だが、思い出したくない記録が残っていること自体は変わらない。そこで楓が提案する。

「それに、あえてすぐにテスターに復帰するより、徐々に復帰する方がいいんじゃないかな?」

 問題のダークスノウクイーンのイメージがまだ強く残っている今、テスター復帰すれば、当然ファンもアンチもおもしろがって弄るだろう。

「それなら、高校の間は釣り同好会メンバーとしてSNSで配信すれば、時間が解決してくれるのを待つしかないんじゃないかな? 私らも協力するしさ」

 完全に過去を消すことはできないが、薄れさせることはできる。

 ネットで生まれたレッテルは消えないものの、一時的に忘れさせたり、別のファンを増やすことはできる。だったら、「ただの女子高生たちの釣り同好会の活動記録」という形で復帰すれば、必然的に「釣り同好会の冬咲琴音」のファンが増える。

て テスターとして復帰するのはその後でも遅くない。

「……いいわよ……やってやるわ! ダークスノウクイーンを完全に全ての眷属の記録メモリアから抹消してやるわ!!」

 演技をやめ、高笑いする琴音は、どこか無邪気で自由だった。

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